上司の弱点-3.須藤-


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俺は現場の休憩室でぼーっと考え事をしていた。
昨日の出来事は何だったのだろうか。班長はドMの変態?あれが本当の姿?
だが今朝の朝礼でも特に変わったところもない。いつも通り気合の入った声で挨拶をしていた。

昨日のことが夢のように思えてくる。
考えれば考えるほどに、普段見せる厳しさや傲慢さからは掛け離れた姿に疑問が出る。

だが、昨日見たあの姿は脳裏に焼き付いている。俺が班長の金玉を蹴った後に、班長はギンギンに勃起していた。
ビキニ越しのぶっといその逸物が頭から離れない。

「お、こんなとこにいんじゃん」
俺が神妙な顔つきでそんな考え事をしていると、心配してくれたのか仲間の須藤がやってきた。

彼は現場近くのコンビニで買った袋をドカっと机に放り投げると、俺の隣の席に座る。
休憩室にはソファーなどの他にテーブルを囲んで6つの椅子がある。他が空いているのにわざわざ隣の席に座る須藤はなかなかうざい。

「おいおい、嫌な顔すんなよ。ほらお前も食うか?」
サンドイッチを勧められ、俺は断った。

呑気なやつだ。
須藤は俺の1つ下の21歳。茶髪の坊主頭にキラリと光るピアスはイカにもヤンチャな男だ。悪いやつではないのだが、距離感が近くて少々めんどくさいところがある。

「飯食ったん?」
「ああ、さっきな」
俺がそっけなく返事をすると不思議そうに尋ねてくる。
「博道(ひろみち)どうしたん?彼女に振られたか?」
わざとらしく言うこいつにイラっとしながら俺は返事をした。
「もともとイネーよ。知ってるだろ」
「じゃああれか、狙ってる女を他の男に取られたとか!?」
サンドイッチをほう張りながらそんなことを言ってくる。
「違うって」
「あーあ。博道にも春はこねーのかー」
すごくめんどくさくなった俺は携帯片手に話を合わせることにした。

話半分に聞いているが、どうやら須藤は同棲中の彼女と喧嘩中らしい。なにやらAVを隠し持っていることがバレて彼女が家を出て行ったらしい。

「そのAVってどんな内容なんだ?」
「SMものなんだがよ、人妻寝取られ縛りってやつ」
俺は吹き出しそうになった。
「ミホのやつさ、須藤くんDVしたいなんて信じられないっつって出て行きやがってよ。いやいや、AVはあくまでAVだよな。なんでそこまで飛躍するかっつう話。さらにあいつ浮気まで疑ってきやがった」
だんだんと声を荒げていく。
「どうせ私がいない間に人妻食ってるんでしょ!!このヤリチン!!って捨ぜりふ吐かれてよ。俺ポカーンだぜ」

須藤はチャラそうに見えて以外と彼女に一途だ。その彼女に信用されていないのは少しかわいそうになった。
「なあ男ならAVくらい持ってるよな。本当ありえねー」
「さっさと誤解をとかなきゃな。男なら追いかけて抱きしめてやれよ」
俺が適当に返事をしてやると須藤はいきなり俺の横から抱きついてきた。

「やっぱり俺、男と付き合おうかなー」
「お、おい待て。はなれろ」
俺は須藤の格闘技で鍛えた硬い体を押しのけた。
「だってさ、男のほうが男心わかってるだろ?女みたいに女々しくないし。イヤだめだわ、俺男とやれねえわ」
「勃つんかよ」
「無理無理、やっぱり女体が一番だな。ミホに言って仲直りしてヤリまくろ」
なんか一人で自己解決している。

「それでさ、博道の悩みってなんだよ」
「知りたいか?」
「もしかして昨日班長に怒られてたやつか?」
いきなり図星をつかれて俺はどきっとした。
「お、おう」
「でかい怒鳴り声聞こえてきたけど、大丈夫だったんか?」
「ああ、数発殴られただけですんだ」
俺は嘘をついた。

「やっぱりあの野郎暴力ばっかだな。本当くそだ」
とっさに嘘をついて班長に少し申し訳なく思った。
「で、何やらかしたんだ?」
「それは秘密だ」
俺は班長の家に行ったことを漏らしそうになったが踏みとどまった。
「教えてくれたっていいだろぉ?俺とお前との仲じゃん」

流石にいま秘密を言うわけにもいかない。口止めをされているし、まさか班長が金的好きなんてコイツも夢にも思わないだろう。

「ちぇっ!!俺は悩みを打ち明けたってのによ」
勝手に話してきたくせに。
「口は災いの元。以前お前に話した秘密がどうなったか覚えて無いのか?」
「ぜーんぜん」
「はぁ…」
お調子者のこいつに話すとロクなことにならない。
以前好きな子が出来て彼に話した時は、仲間内だけではなく本人にまで知られてしまった。
こいつに秘密を言うわけにはいかない、班長の秘密ならば尚更だ。

俺は逆に気になったことを聞いた。
「それで今日の班長、変なところなかったか?」

「ぜーんぜん、いつも通りの糞野郎だったぜ?トロイと殴るは蹴るわで、そのうち切れた部下達にリンチされるんじゃねぇの?」
「そうか、やっぱりそうか」
「隠し事はよくないぜー?」
疑いにかかる須藤を無視して俺は休憩を終えた。
そして、今度は班長の近くで仕事を始めた。作業員は10人もいないが作業現場は以外と広い。

班長はいつも通り怒鳴りつけながら部下を動かしていた。
うるさい上司だが、自分自身も汗だくで働いているだけましか。俺はなんとなくそう思った。

「チンタラ動いてんじゃねぇ!!なめてんのかてめぇ!!やる気がねぇなら帰れ!!」
そして俺も同じように班長の煩い怒号を受けて、工事用の土砂を一輪車で運ぶ。
昨日の事があってか、上司は俺に暴行を加えることは無かった。

班長の方を見ると、黒いタンクトップを着て、日に焼けた逞しい腕を振り回して指示を出している。
上司のガタイは人間2人くらいの大きさがあるんじゃないだろうか。
いつもと変わらない姿に安堵した。


炎天下の中で、デカイ図体の班長の身体は汗でヌルヌルとテカっている。
彼の汚れた作業着のズボンの中には、昨日蹴り上げて少し腫れた金玉がぶら下がっているだろう。
あそこに班長の秘密が眠っている。

「赤崎!!なにチンタラしてやがる!!さっさと手を動かせ!!」
俺は怒鳴られたので仕事に集中する事にした。

一通りの作業が終わるなり、俺は班長に呼び止められた。

「お前らしっかりやっとけよ!!おい、赤崎こっちに来い」
俺は腕を掴まれ、強引に建物の裏に連れて行かれる。

「なんすか急に」
「おい、俺の事バラしてねぇだろうな」
なんだ、そのことか。

「ええ、そんな事はしないです」
「ならいい、今日も夜に俺の家に来い。命令だぞ」
それだけ言って、班長は戻っていった。

俺は班長を追いかけて急いで仕事に戻った。
班長が強引な男だということはみんなが知っている。
俺にこうして命令口調で頼むのは、恥ずかしさを誤魔化す為なのかもしれない。

どうにかして班長を従わせることが出来ないだろうか、俺は考えを巡らせた。

金的の秘密を使えば出来るかもしれない。今日の班長の家で、仕掛けてみる事にした。


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