『シャカシャカの王、散る』
〜兄・豪太、金的屈辱の記録〜


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俺の名前は豪太。身長175センチ、体重80キロ。肩幅が広くて、太ももは電柱みたいや。
ラグビー部でも最前列に立つ俺を、みんな“突撃戦車”とか“二足歩行のブルドーザー”とか呼んでる。
まあ、そんくらい俺は強いし、誰にも負けへん。
今日も俺はお気に入りの全身ナイロンピステ。
上も下も、光沢バチバチのシャカシャカ素材。歩くたびに擦れる音が、まるで戦の太鼓みたいや。

シャッ、シャッ、シャッ――。
廊下を歩くだけで、部屋中に音が響く。
自信の証や。
弟のコウタは、この音を聞いただけで怯える。
俺が近づいてると分かって、顔をこわばらせるのが、おもろてしゃあない。

「おーい、コウタァ。遊んだる言うたやろ。出てこいやぁ」
返事はない。
でも、部屋の奥で物音がする。震えとるな、可愛い弟め。
俺が手加減するわけないの、分かっとるからな。

「うぉおおおっしゃァ!」
リビングのソファーに登って、俺は仁王立ち。
目の前には、床で身をすくめたコウタ。
ちょっと顔色悪い。いや、ええやん、遊びやんけ。兄弟のスキンシップや。

ピステのズボンがソファの革にこすれて「キュッ」と鳴る。
上着の袖は腕に密着して、少し汗ばんだ肌に張り付いてきよる。
シャカシャカのリズムが、俺の気分を最高潮にしてくれる。

「いくでぇ! スーパー・兄ちゃん・ドロップ!」
勢いよく飛び出した俺の体は空中を舞う。
これがラグビーで鍛えた跳躍力や。コウタの細っこい体にドスンと落ちたる――その刹那。

グシャッ。
「……ッ!!??」
空中で腹筋に力を入れたその瞬間、俺の下腹部に、いや、“急所”に、想像を絶する衝撃が走った。
見えた。コウタの膝。
立てられたそれが、俺のナニを、ピンポイントで、ズドンと迎撃してきた。

体がひしゃげた。地面に落ちるはずだった俺の体は、空中でひとつ折れにされ、床に転がり落ちた。
ピステの光沢が床に反射して見えたけど、もうそれどころじゃない。

「っがっ、あぐぅ……ッ!! ぐぼおっ……ッ!!」
喉の奥から、ゴリラみたいな声が出た。いや、それ以上の何か。
地面を這う俺の声は、獣の咆哮そのものや。
ピステのシャカシャカが、転げ回るたびに音を立てる。まるで俺の痛みを囃し立てるように。

シャカ、シャッ、ズザッ、ドサッ……。
「に、兄ちゃん!? だ、大丈夫……?」
声が震えとる。けど、俺はそれに答える余裕がなかった。
腰を丸め、両手で急所を押さえ、うずくまるしかない。
腹の底から波のような痛みが、じわじわ、そして鋭く、追い打ちをかけてくる。

俺が起き上がろうとしたその時、コウタが……まさかの行動に出た。
「に、兄ちゃん……ご、ごめん……っ、でも、もう……こ、怖いねん!」
その手が、俺のピステのズボンの股間部分に伸びてきた。
「ちょ、待てコウタ、や、やめっ……ッ!!」
グニィ。
鷲掴みにされて、しかも……絞られた。

「ひあああああああああッッッ!!!」
もう、声が裏返るどころか、宇宙語みたいな叫びになってた。
俺様なはずの豪太が、弟に股間を握られて、なす術なく床をのたうち回るなんて。信じられへん。
いや、嘘や。これは夢や。悪夢や。
でも、現実は残酷やった。

「や、やめてコウタ……やめて……ほんまに……!!」
俺の声が、か細くなっていく。
威勢も、強がりも、全部剥がされていく。
ピステの光沢が涙に濡れて滲んで見える。

そのとき、コウタの手が、俺の足の下から――副睾丸に向けて這い上がってきた。
「や、やめろ……そ、そこは……ッッ!! ぬ”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”ッ!!」

ゴリラ化。 完全に。
もう立てへんかった。膝も腰も、魂も砕けてしもた。
シャカシャカのピステは、いつものように俺を鼓舞してくれへん。
ただの薄っぺらいナイロンの布や。光沢も、誇りも、全部あの弟の手の中で砕かれた。

「ご、ごめん……兄ちゃん、ほんまに……でも、もう、怖かってん……!」
コウタの手が離れた瞬間、俺は床に崩れ落ちた。
涙も、涎も、汗も、全部流れ出とる。
ラグビーでどれだけ鍛えても、弟の膝一発、そしてその小さな手の前では、俺はただの男でしかなかった。
部屋に響くのは、俺の呼吸と、シャカシャカというピステの摩擦音だけ。

俺様・豪太、金的敗北。

「くぅ……っ、こ、コウタぁ……ま、まじで……も、もう……っ!!」
言葉にならんかった。腹の奥から何かが込み上げてきて、喉が震える。涙腺も勝手に開いてる。
何よりも――ナニが、とにかく痛い。

「兄ちゃん、動いたらあかんで……っ、さ、さっき……めっちゃ怖かってん……」
目が合った。コウタは本気やった。
そのときやった。

ズリュッ。
シャカパンの股間部分が、コウタの指にねじられ、擦り上げられた。
ナイロンが唸るような音を立てて伸び、俺のナニをその中で揉みしだく。

「ぐぼえっっっ!!?!」
俺の両膝は崩れ落ち、ピステが床を擦って音を立てる。

シャッ、ズザッ、ガッ、ガサッ――
これはもう“競技”ちゃう、“拷問”や。

「うぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”お”お”お”お”お”っっ!! うっがぁぁっ、う”が”が”が”っっ!!」
喉から吠えるような声が漏れた。完全にゴリラ。いや、それ以下。
シャカパンが汗で張り付き、俺の動きに合わせて叫ぶ。
シャシャシャシャシャッ!!

コウタの手がピステの裾から滑り込み、玉の根元を斜め下から、持ち上げて――ひねった。
「に゛ゃおおおおおあああああッ!!」
四つん這い。息も絶え絶え。

「はぁっ、はぁっ、うっ……く、っふぅぅ……」
弟の声が、遠くに聞こえる。
「兄ちゃん、もう……ほんまに、やめてくれるな……こ、こわいこと、せんといてな……?」
「……ううぉぉ……う”ぅ”ぅ”……ぉぉおぉ”ん……」

俺様だった豪太は、弟コウタの手の中で、静かに敗北した。
ピステの光沢が、夕日に滲んでいた。

朝。まず触れるのは袋や。まだ痛む。
俺は誓った。今日こそ、威信を取り戻す。
新品のメタリック青のピステを着て、リビングに立つ。
「今日こそ……! 俺様兄ちゃんの威信、取り戻したる!!」

再戦。だが――
ピンッ!!
膝が刺さった。
「ぐべぶぶぼああああああああああああああッ!!!」

そして副睾丸を握られ――
「ヒギィィィィィィッ!!」
完全に崩れた。涙、鼻水、シャカパン。
「わ、わかった……もういばらへん……や、やさしい兄ちゃんになるからぁぁ……っ!!」

後日、痛みに耐えながら、日常を過ごす豪太。ピステを着たまま、ソファで静かに呼吸する。
シャカシャカ音が、俺の過去を思い出させる。
弟が近づくたび、反射的に股間をガードするクセが抜けない。

「……兄ちゃん、またガードしとるやん」
「う、うるさいわ。クセやクセ」
痛みと一緒に生きる。
ナイロンのざらつきも、布越しのトラウマも、全部引き受けていく。
いつか、またシャカシャカ音を誇りをもって響かせる兄貴になれる日まで――


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