ショートショート



 今日で、かれこれ一週間。中、高とずっと柔道をやってきたので、
体力には自信があったが、思った以上に仕事はきつい。
現場作業員、いわゆる土方になって、一週間。
もちろん現場ではダントツの新人。
毎日、先輩がたより一時間早く来て現場や事務所の掃除をしている。
今日も朝早くから現場の掃除。ちょっと、早く後輩が出来ないかな~、
と願ったりしてみる。

「おい、にぃちゃん。にぃちゃんよぉ。」
野太い声が背後から聞こえいる。
まだ先輩たちが来るはずが無い。出勤時間までは
まだ、1時間近くある。
振り返ると、「や」の付く自営業にしか見えない
あまり趣味のよくない派手、としか言いようの無い
ネクタイと高そうな茶色のスーツをきたおっさんが自分を手招きしてる。
「絶対いきたくない」とはおもったが、どう見ても現場には自分しかいない。知らん顔をすれば状況は悪くなるだろう。竹箒を持ったまま、恐る恐る、手招きされるほうへと歩み寄った。
死神に手招きされるほうが、まだましな気がする。
「おう、兄ちゃん。ちょっと、聞きたいことがあるんだけどなぁ?」 「え?あ、自分・・っすか?」
突然、股間が絞られるような圧迫感に襲われた。
「おまえしか、おらんやろが。」
ごつい手が、俺の金玉を両方とも握りこんでいる。
「あっ・・・あ・・・潰れる・・・」
「なぁ、兄ちゃん。ここに早川ってふざけた餓鬼はおらんか?」
握る手に更に力が加わる。
「くぁぁ・・・しっ、知りませんっ!!」
嘘じゃない。ここでは、自分のような現場作業員だけで、
200人近い人間が動いている。しかも、入って一週間だ。
同じ班の名前をようやく覚えた所なのに他の班の人間の
名前など知るはずも無い。
「ここにいるのは、わかってるんだけどねぇ・・・。」
さらに力をこめる。ごつい掌のなかで、俺の金玉がゴリゴリとすり潰される。
「あっ・・・ああ・・・すっ、すいません。自分はいったばっかりで、まだ他の人の名前知らないんっす。ほ、ほんとっすっ!」
「ふ~ん・・・」ゴリゴリと俺の金玉を弄ぶ。
「ひっ・・・くぅっ・・・潰れる・・・」
「他の連中は?」
「せ、先輩方はまだっすっ。多分、一時間もすれば来るっす。」
「ふ~ん・・にぃちゃん、名前は?」
「え、お、俺っすか?あああぁぁぁぁっ!!」
「お前しかおらんやろがっ!」金玉が捻り上げられる。
「ひいぃぃっ!!すっすんません。自分、渡辺っす。渡辺俊哉っす。」
「・・・トシちゃんね。まぁ、一時間、時間潰すのも馬鹿らしいしな。昼頃また来るわ。」
「あ、そ、そうっすか・・。」
「とりあえず、トシちゃん。壁に手を当てて、足を開けや。
アメリカの警察がボディーチェックするあれや。」
漸く、俺の金玉はごつい掌から開放された。
ちょいちょい、関西弁風になるのが気になったが、
俺は逆らわずに壁に両手をあて足を開いた。
ごつい掌が俺の体を上から順に撫で回し、俺のケツを
執拗に撫で回す。すっと、俺のケツのポケットに入れていた
財布が抜き取られた。
壁に両手を突いたままの俺の背後で、財布を漁っている気配がする。
「・・・なるほど、渡辺俊哉。本名やな。」
どうやら俺の免許証をみているようだ。
「よかった~中途半端に嘘つかないで・・・。」
俺は心の中で、胸をなでおろした。
「トシちゃん正直でよかったな。嘘ついてたらタマキン両方とも潰して引き千切ってやるとこやで・・・」
安堵のせいか、一瞬体から力が抜けた。
その瞬間、俺のケツが浮き上がるほどの衝撃が股間を襲った。
「・・・・・・・・・っ!!」
視線を自分の股間に移す。
俺の給料の2,3倍はしそうな、趣味の悪い革靴が、
俺の股間にめり込んでいる。
「あああっ・・・・・・!!!」
耐え切れずに、俺は股間を押さえ地面をのた打ち回った。
ケツから抜き取られた俺の財布が地面に落とされる。
「じゃあな、トシちゃん。くれぐれも早川には余計な事言わんようにな・・・」趣味の悪い後姿が遠ざかっていく。俺は地面をのた打ち回りながら、顔も知らない早川って先輩が、あいつに金玉を潰されれば良いのにと思った。


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