野獣覚醒、パワーボムで相手を粉砕!!
週間プロレスの表紙には、ゴリマッチョなプロレスラーがパワーボムで相手を倒す瞬間が納められていた。
高木俊平(たかぎしゅんぺい)はニヤニヤと笑みを浮かべながらページをめくる。
どのコメントもゴリマッチョな彼自身を絶賛するものばかりだった。
ロッカールームには練習着のショートタイツを履いた高木ともう1人、細身で背も低い三口隼也(みぐちしゅんや)が高木の方を気にしながら着替えていた。
「おい、何ニヤニヤしてんだ、気持ち悪いぞ」
「いいじゃないっすか。自分のカッコいい写真が写ってるんすよ?」
実際かっこいいと思う。全身野獣のように盛り上がった筋肉は、男らしさや力強さ、さらに男の色気をムンムンと醸し出している。
髭を蓄えた厳つ過ぎる顔は女ウケが悪いが、それでも可愛い熱烈なファンはたくさんいる。
そんな高木が、同じような重量級のベテランレスラーを倒したのだ。得意げになっても仕方ない。
「ふん、好調がいつまでも続けばいいな」
せっかく気分良くなっているところに水を差されて、高木はイラっとしてつい悪態をついた。
「俺はあんたと違って才能があるっすから」
「ぁあ!?」
「あんたはヒールらしくコソコソするのがお似合いっすよ」
先輩といえども実力の世界では高木の方が立場は上だった。所属団体の社長ですら、いま勢いのある高木には甘かった。そんな彼を先輩の三口は快くは思っていなくてあまり仲が良くない。
イライラが収まらない高木は続ける。
「だいたい、反則技は試合のスパイスっすよ。あんたみたいに反則技ばっかりだと客も興醒めっすよ」
「あぁ!?お前最近調子こきすぎ」
「実際調子いいっすからね。あんたと違って」
先輩の三口は奥歯をギリギリと噛み締めながら耐えるしかない。高木の言葉は事実だからだ。このところ試合に勝てないどころか、ヒールとして客を盛り上がらせることも中途半端に終わってしまっている。
ロッカールームから去る際にも、高木は挑発を繰り返した。
「口先ばかりじゃなく、何か凄いことにしてみたらどうっすか」
週末、高木はリングに上がっていた。会場を埋め尽くす観客が、高木コールを送る。
見事な盛り上がりを見せる胸筋を動かすと、Tシャツを脱いで観客席に投げつける。
膝、肘のサポーターと黄緑色の蛍光色のショートタイツだけの姿になった。
毛深くて逞しい太ももを強調させるために、ショートタイツを愛用しているが、一部ファンの間ではモッコリが強調されることで人気だった。
動くたびに彼の大きめの男性器が形を変えて揺れ動く。
ゴングが鳴った。相手は一度戦ったことのあるスレンダーな体型のマッチョレスラーだ。前回はパワーを見せつけてボコボコに叩きのめした。
高木は観客を楽しませるために、相手の技を受けながらも、派手な技を繰り広げた。
力と力のぶつかり合い。汗が飛び散り、観客は熱狂する。
高木は試合中盤までは劣勢な振りを演じた。そして相手が背後から掴もうとする瞬間にバックキックをかました。
相手レスラーは股間を押さえて顔を歪める。そのレスラーの両脚を引っ張って倒すと、今度は相手の股間に膝を落とした。
「ぐぉぉぉ!!!」
観客からは悲鳴と歓声とブーイングが沸き起こる。
相手は膝を曲げて、両手で股間を押さえながらリング上を転がった。顔は男の苦痛に満ちている。そしてうつ伏せになると、脚をバタつかせてうずくまった。
そこからは完全に流れがかわった。相手は急所の痛みで力が半減してしまった。
相手レスラーをトップロープに座らせると、大技を決めるために自らもトップロープに登り、相手を持ち上げた。
そしてそのまま後ろ向きに倒れ込み、相手の背中をリングに叩きつけた。
3カウントがはいり、熱狂的な声援の中で勝ち名乗りを上げる。
力なく倒れる相手レスラーの横で、両手を高く上げ、雄叫びをあげた。
「俺がナンバーワンだ!!文句あるやつはかかってこい!!」
それに応えるかのように観客は更に大きく声援を送った。彼は自分の力に酔いしれた。
その時、背後からリングに乱入する男がいた。
高木は自分の急所が深々と蹴りあげられるまで、その男の存在に気がつかなかった。
「おぉぉぉぉぉぉぉぅ!!!!?」
ショートタイツの上からでもわかる膨らみは、蹴られた瞬間に歪に変形して骨盤にと足の甲にプレスされた。
すぐさま股間を両手で押さえると、目をキュッと閉じて口を大きく開け数秒だけ身体を硬直させた。
そしてゆっくりと前のめりに倒れこんだ。
全観客が彼が金玉を蹴りあげられる姿を目撃した。
女性のファンは悲鳴をあげ、場内がざわつく。
高木は、男特有の地獄の苦しみの最中、乱入してきた男を見た。そこにいた三口に猛烈な怒りが沸き起こる。
「最近調子乗りすぎだ、言いザマだな」
この野郎!!俺のタマを、キンタマを!!ゆるさねぇ!!
しかし急所をやられた直後に反撃できるはずもなく、リングに這いつくばって、片手で股間を押さえながらのたうち回ることしか出来なかった。
そんな彼の身体を三口は複数回踏みつけた。
「うっ!!うっ!!」
そして首近くを踏みつけた時に高木は思わず股間から手を離してしまった。
ドスっ!!
ガラ空きになった股間めがけて、三口の足裏がめり込む。硬いシューズの裏が高木の双球をゴリゴリと押しつぶした。
「離せ!!てめぇ!!」
高木は慌てて足首を掴んでも、三口の力強い踵が大事な金玉を踏みつけた。
金玉を蹴られた直後に踏まれるのはたまらない。そしてなにより恥ずかしかった。
今日のヒーローだった筈が、乱入してきたカスにやられている。
「あっ!!うっ!!くそっ!!」
三口に散々金玉を踏みつけられた後、ダメ押しで思い切り踵でゴリっとタマを踏まれると、高木は股間を押さえてリングを転がった。
ファンたちの中には彼を見て、幻滅する者もいた。
厳つい顔を苦痛で歪め、股間を押さえながらもなんとか片足をつけて立ち上がれるようになった頃には、もう三口はいなくなっていた。しかし彼の災難は終わらない。
両脚をいきなり掴まれて引っ張られて、頭をリングに打ち付けた。
「うぉっっ!?」
掴んだのは三口ではなく、先ほどまでの対戦相手だった。
「さっきの仕返しだ」
そう言うが早いが高木の股間に硬い膝が深々とめり込んだ。
その衝撃で高木は身体を激しく飛び上がらせた。
まだ回復しないうちの金的は男として地獄だった。しかし相手はまだ足首から手を離そうとしない。
高木は泣きそうな顔で両手を前に出し、降参のポーズを取った。
相手はニヤニヤと笑いながら、その姿を見下ろした。そして非常にも全体重を乗せた膝を、高木の金玉目掛けて振り下ろした。
「グォォォォォ!!!!」
野獣のような叫びが会場に響き渡る。
男として堪らない。レスラー人生でこれほどまで急所を痛めつけられたことはない。
「あぁ、タマ…俺のタマ………ハヒッハヒッ!!」
潰れたかもしれない、そんな恐怖の中で、彼は苦痛から逃れようと情けない声をあげてのたうち回った。
厳つい野獣の姿が一変、小動物のように縮こまり、動かなくなった。場内がどよめきたつ。
中にはあからさまに笑うものもいた。
勝者は高木のはずなのだが、リング上の状況はそうではない。彼にとって、股間を押さえて悶え打つ姿をファン達の前で見せることは、これ以上ない程に屈辱だった。
なんとか立ち上がれるようになった後、股間を片手で押さえながらリングを後にする姿には、自信満々だった彼の面影はなかった。
急所攻撃を受けてから4日が経って、高木は社長の前にいた。
「三口の野郎!!あんなの良いんすか!?乱入してきて俺のタマやりやがって!!」
「まあまあ、落ち着け」
「落ち着いてられるわけないっすよ!!見てください、今週のプロレス雑誌!!」
雑誌の表紙には、急所攻撃を食らう瞬間の高木の姿がデカデカと飾られていた。しかも煽り文句に、野獣の金玉は再起不能か!?と載っている。
ページをめくると、苦痛に顔を歪めて内股で股間を押さえる高木の写真があった。そして亀のようにうずくまる姿も撮られていた。
「まあまて、実はな私が三口に指示したんだ」
「はぁ!?」
社長曰く、高木と三口が揉めた次の日、三口は社長に話をつけていた。
ヒールの自分が試合後に乱入して卑怯な手で高木を倒してしまえば観客は大盛り上がりになる。
今後は高木vsヒールの三口でやってはどうかと。
社長は悩んだ挙句、それを承諾した。
「確かに高木には勢いがあるが、少し試合がマンネリ化してきただろ。ライバル出現したら盛り上がると思わんか?」
高木は頭をひねった。
「次はヒールの三口をリング上で叩きのめせって事っすね」
「ああ、そういうことだ。ただしやるなら真剣勝負だ。あいつの反則を防いで勝ってみせろ。お前ならできる」
高木は闘志を奮い立たせた。あの日恥をかかせられた分を仕返ししてやる。
しかし高木はまだ知らなかった。反則攻撃、特に急所攻撃に関しては三口は二枚も三枚も上手だという事に…
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