田舎の交番
「あのぉ、相談したいことがあるんですけど」
日の暮れかけた秋空の元、交番を訪ねて来たのは30代前半の男だった。それが癖なのか、時折ズボンの前に手を当てるような仕草をする。
「何か落としでもされましたか」
「いえ、実はちょっと相談を・・・」
気弱そうな男は交番が慣れていないのか、オドオドした様子で警官から目線をそらした。
「相談ですか、詳しく話してください。」
「えーと、えーと」
男はまだ動揺しているようで何を聞こうとも返事が返ってこない。
「わかりました。中でゆっくり話を聞きますので、こちらへどうぞ」
男はその言葉に安心して、交番の中に招かれた。
簡素な事務机を挟んで篠田と警官は椅子に座る。暖房の効いた部屋は少々暑い。
名は篠田俊雄(しのだとしお)。もう夏は終わり、気温が落ちてきたというのに白色のTシャツに長いジャージを履いている。聞けばどうやらジムから帰宅する時に暴漢に襲われたようだ。
確かに身体はしっかりと鍛えられ、シャツから見える腕は太く盛り上がり、胸囲も並の成人男性よりかはある。こんな彼が襲われるのか。
だが如何せん、気が弱いようである。交番の中をキョロキョロと見回し、不安そうな顔をしながらゆっくりと質問に応じた。
「えーと、ジムを終わって帰る途中に何者かに襲われたということでしょうか。時間にして何時頃かは憶えてますか」
「はい。確かジムが終わったのが3時ごろだったと思います。だから・・・・多分3時半ごろだと思います。」
「場所はわかりますか」
「この近くの扇町公園です。ジムが終わって公園の林を散策していた時に襲われました」
篠田はようやく落ち着きを取り戻し、その時の状況を順を追って思い出した。警官はその被害状況を書いていった。
犯人は彼と同じ身長175cmほどで、服装はジーパンに灰色のパーカー。顔はキャップを被っていたためによく見えなかったようだ。
20代から30代だろうか。
「順を追って話してください」
額を汗で滲ませ篠田は語った。
「公園を散歩していた時、背後からガサゴソっていう音がしたんです」
「公園の林ですね」
「はい、猫かなと思って振り返って見たら、その男が立っていました。何故かその男が近づいてきて、何の前触れもなく股間を蹴り上げられたんです」
「股間をですか?それは何故」
「わかりません。突然のことで驚きました。まさかいきなり股間を蹴られるなんて想像も出来ませんからね。
一瞬で頭が真っ白になって気がついたら地面に倒れて股間を押さえてました」
「それは災難ですね」
「災難なんてものじゃ無いですよ。でもまだ終わってなかったんです」
篠田は少々興奮ぎみに語る。
「あの男は一発俺の股間を蹴っただけじゃなく、仰向けに倒れる俺の腹に乗って来ました。そうなれば男の背中を殴るぐらいしか出来ません。不安でしたよ、次は何をされるのか」
事情聴取を続ける。
「そいつはジャージの上から金玉を探し、思い切り握りました」
「どれくらいの強さですか」
「もうそりゃ思い切りです。ただ単純に握るのではなく、強弱を付けて来ました。玉を片方ずつ交互に、まるで乳搾りをするように苦痛を与えてきました。
信じられますか?金玉片方ずつ握って交互に潰してくるんですよ」
そう言って篠田は両手で握る真似をする。
「あなたはその間抵抗などはしなかったのですか?」
警官のその質問に「とんでもない」と声を張り上げる。
「抵抗をしようにも、馬乗りの体制では何も出来ないです。それに金玉を握られると力が出せないんです。金玉が指で押しつぶされると脂汗が吹き出して呼吸がしにくくなります。
出来る事といえば、金玉をゴリゴリと潰されるごとに激痛にもがきながら、辺りの枯葉を握りしめることぐらいでしょうか。おそらく5分くらいそうして男は俺の金玉を痛めつけていたと思います。でもやられている時は永遠にも感じました。
苦痛はやられ続けるごとに増していって、まるで金玉をから腹にかけて毒でも入れられたのかと思うほど鈍く痛みました。このまま金玉が潰される事を覚悟しましたよ。」
「その後は男は逃げていったんですか」
「ええ、解放された時の事は覚えているんですが、あまりの苦痛にしばらく悶絶してまして、あんまり憶えておらんのです」
「その犯人は、篠田さんに暴行を加えている間は何か言っていましたか」
篠田は短い頭をポリポリと掻いて首を捻らせた。
「てめえの金玉潰してやるとか、どうだ苦しいか、悲鳴が小せえぞなど、挑発してきました」
「ほかには?」
「特にないですね。潰してやると言われたときは酷い恐怖に襲われました。お巡りさんも男ならわかるでしょう、金玉を打つ痛み。
今でも少し痛みます。」
そういって篠田は股間を押さえる仕草を見せた。
「ええ、実はわたしもこう見えて急所の痛みは数えきれないほど味わった事がありますよ。だから篠田さんの気持ちは痛い程よくわかります。あの苦しみは辛いですよね」
篠田は警官の言葉に不思議そうに身をのりだした。
「ほんとうですか。俺も学生の頃はじゃれ合ってよく同級生の金玉を狙ってましたが、お巡りさんもそのような経験があるんですか」
警官は少し悩んだ後、話し始めた。
「私の場合は大学の頃ですね。警察官になる前は大学で柔道をしていまして、当時は誰よりも大きくなろうと身体をデカくしていました」
ぱっと見ではわからないが、警官の制服の裏には確かに鍛えられたガタイが見える。
「当時の私は先輩に目を付けられてまして、そのたびに金玉を狙われて悶絶していたのを覚えています」
「どんな責めをされたのですか」
「そうですね例えば・・・。柔道の内股という技をご存知ですか。」
篠田は考えた。「まあ、一応は・・・」
「組合のときに相手の内ももを蹴り上げて投げる技なのですが、これが失敗するとよく急所を蹴り上げてしまうのです。
あくまでアクシデントとして起こる事なのですが、わざと私の急所を蹴り上げる輩がいました。
完全に故意の金的だったのですが、監督がいない場所ではやりたい放題。男の痛みにのたうち回る私を見下ろして、笑いながら”悪い悪い、玉がデカすぎて当てちまったわ”なんて言われます。何度もやられると殺意すらわいてきますよ。」
「やられたのはお巡りさんだけだったんですか?」
「ええ、私だけではないですけど集中して狙われましたね。酷い時だと上級生に”根性を鍛えてやる”と呼び出され。日が暮れるまで金玉をいたぶられました。男に生まれた事を後悔するほど長い時間やられます。
金玉を殴りながらスクワットをやらされ、苦痛で膝を着いたらもう一セット追加。そのうち一発でも耐えられなくなり永遠と続けられます。
寝技やプロレス技で締められながら延々と金玉を握りつぶされることもありました。大抵は吐くまで許してくれません」
「いじめのような経験ですけど、そのときに抵抗はしなかったのですか」
「ええ、抵抗はしていましたよ。でも下級生でまだ非力な私にはどうしようもありませんでした。柔道をやめようかと考えた事もあります。」
警官はあえて話さなかったが、県警には、そんな当時のしごきを止めてくれた男がいる。同じ柔道部の先輩で、彼の恩人である。
「私以外にも下級生はよく上級生にからかわれていました。気の弱い同級生は、パンツ一丁でよく体育館横の売店にパンを買いにいかされました。そのときに腹にマジックで”金玉蹴って下さい”と書かれるんです。そうすれば他の体育会系のやつらがおもしろがってその子の股間を次々と蹴り上げていくんです。玉が腫上がるまで酷くやられていました。複数人に両脚を掴まれ何十発もやられて、男の地獄に落とされます。
体育館の廊下で屈強な男たちに囲まれながら悶絶していたのを覚えています。
すいません、こんな恥ずかしい話しをしてしまって」
「いえいえ、貴重な話しをありがとうございます。」
「関係ない話しをしてしまいましたね。上司にばれたら怒られそうです。」
「はあ・・・・・実は私も体育会系の部活をしていたんですよ」
「本当ですか、なにをされていたんですか」
「空手です。当時は練習に付いていくのに必死でした。あれは高校の時でした。」
そういって篠田は当時を思い出す。
「実は空手部には伝統がありましてね。男入れという習慣がありました」
「男入れですか?」
「ええ、月に一度監督自ら部員達に喝を入れるんです」
道着を着た総勢20数人の部員が闘技場に並べられる。
「いいか!!男たるもの根性が無ければ話しにならん!!根性とはどれほど理不尽な事があろうと自分に打ち勝ち、勝利を勝ち取っていくものだ!!お前ら、試合に勝ちたいか!!!」
「押忍!!!!!」
「己に勝ちたいか」
「押忍!!!!!!」
部員達の声が室内に響く。
「股を開いて手を頭に組め!!」そんな監督の言葉に部員達は中腰になり、己の股間を曝け出す。
そして順番に喝が入れられていく。
「名前は!!」
「藤波達也です!!男入れ、お願いします!!」一番端の部員が監督の前で声を張り上げ、そして監督はその子の男の急所を蹴り上げる。
「んん”・・・・ぐ・・」玉が押しつぶされ、衝撃が脳天を突き抜ける。脚をガクガクさせ、痛みに悶えるが、決して頭から手を動かす事は出来ない。倒れ込む事はそれ以上に許されなかった。
「ありがとうございます!!」
部員が深々と頭を下げてお礼を言うと、監督は次の男の前に動く。
空手の試合では金玉に相手の蹴りが当たる事はよくある。そもそも急所を蹴らせない事が空手家としては重要であるが、急所に入れられた場合の激痛に耐えられなければ一撃で勝負が決してしまう事になる。それを防ぐ為の鍛錬でもあった。
まるで死刑宣告のように部活の仲間達が順番に金玉を蹴り上げられていく。
金的蹴りがもろに金玉にヒットしてしまえば耐えられるはずも無い。たまらず倒れ込む部員も居るが、その部員を無理矢理立たせて倒れた罰とばかりに金玉を握り、踵が床を離れるほどに持ち上げた。
部屋には男の悲鳴がこだまし、同情の視線がそそがれる。そこで監督に金玉握りからの解放を懇願しようものなら監督の逆鱗にふれた。二つの玉はちぎれるほどに引っ張られ、とてつもない握力により変形させられる。
部員は全身を硬直させ、脳髄に響く雷のような衝撃と激痛に顔を歪ませて涎をたらした。
男たるもの、どれほど理不尽に金玉蹴られようが潰されようが。弱音を吐いてはならない。それが監督の考えだった。
男の二つの金玉は監督の手によって幾度となく変形させられ揉み潰される。男にとっては地獄の制裁は部員が口から泡を吹くまで続けられた。そして監督が満足して手を離すと、その瞬間監督は膝をついて下から腕を使って腫れた金玉をカチ上げる。
柔らかい金玉が屈強な腕に押しつぶされ、パンツの中で踊り狂う。部員は断末魔をあげて畳の上にたおれた。うめき声を上げながら、股間を押さえて芋虫のように身体全体で金的の痛みを表現する。
他の部員は次は自分の番かと顔を青ざめてその光景をみていた。
しかし今度は自分の番だ。
当時部員だった篠田も、監督に最も弱い男の急所を蹴り上げられ、雄の苦しみを味わった。歯を食いしばり、脚をふるわせ、何とか耐える。もし倒れ込めば今以上の苦しみが待っていた。
「男入れは本当に恐怖でしたね。みんな口には出さないですけど、監督の事を憎んでいたと思います」そう篠田は話す。
男入れが終わればいつものように練習が始まるのだが、みな動きがぎこちない。それでも監督からは動きが悪いと怒鳴り声が飛び、股間の痛みに耐えながらも組み手を行った。
「監督に泡を吐くまでやられた子はかわいそうでした。」
「そんな事があったんですね」警官は苦笑いを浮かべながらそう言う。「でもその日に休んでしまえば男入れもされないのではないですか」
篠田は否定した「それはないです。私も初めの頃にそう考えて、ずる休みをしたんですが。待っていたのは監督と一対一の鍛錬でした」
「監督とですか」
「そうです。男入れに参加しない根性無しは監督自ら指導を行うのです。男である事を嫌というほどか思い知らされます」
「というと?」
「監督の強さは部員皆が知っています。監督と組合をすると、的確に股間を狙っ
てくるんです。前蹴り、後ろ蹴り、膝蹴り、殴打、叩き、握り、あらゆる責め
が俺の金玉を強打しました。俺の攻撃は軽々と受け流され、そして死角から鋭
い蹴りが股間に飛んできます。
何度も金的をやられると、だんだんと腹が痛くなり吐き気がし、視界がぼやけてくるんですね。蓄積されたダメージで軽い蹴り一発で悶絶するようになりました。
股間を押さえて悶えていると今度は寝技です。上半身を身動きとれないようにしてきて、その状態で監督は股間をまさぐり、金玉を掴んできます。そこからは地獄です。
どれだけ逃げようともがいても、無防備な金玉は握りつぶされ、嫌な汗をかいてきます。
自分の急所が男のデカい手に握られ、信じられないような圧力を加えてくるんです。
お巡りさんも経験されたのでわかると思いますが頭が真っ白になりますよね。延々と握られるとアドレナリンが下がってもうどうにもできないです。頭は金玉の痛み一色にそまって、あまりの苦痛に男に生まれた事を後悔してしまいます。どれだけ無様に泣き叫ぼうと、ゲロを吐くまで監督はやめてくれませんでした」
「大変な目にあわれていたんですね」
「いえいえ、今思えばこれも良い思い出ですよ。でも今回の事件のようなことは俺は許せないです。見知らずの人間を狙うなんて言語道断。早期に犯人を見つけてもらいたいです」
「そうです。善良な市民に危害を加えるのは私も許せません。一刻も早く犯人を見つけます。安心して下さい」
「よろしくお願いします」
「あとはこちらで捜査の方をしますので、何かわかり次第報告します。今日は気をつけてお帰りください」そう言って警官は席を立った。
「ありがとうございます」
つられて篠田も席をたつ。
「また何かありましたら気軽に交番まで来て下さい」
次の日、交番の前には張り紙が貼ってあった。
不審者情報
10月3日午後4時ごろ、扇町公園にて暴行事件発生。
男が被害者の男性の股間に暴行を加え、以前逃亡中。
身長175cm前後、ジーパンに灰色のパーカー、緑のキャップを着ていた。年齢20~30代。
心当たりがある方は交番までお願いします。
張り紙を貼ったものの、未だ目撃証言ゼロであり、周辺のパトロールくらいしかやることは無い。
新人に仕事を任せ、今日も警官は椅子にもたれて新聞を読んでいた。
数週間経っても以前犯人の特定は出来ず、さらに不可解な事に、似たような事案が全国的にも多数報告されていた。
部活帰りの高校生ラガーマン、現役消防士、ライフセイバーなどが標的になっている。失敗して逃走した犯人もいるが、いずれも被害者の男性はいきなり襲われ、わけもわからず金玉を蹴られ殴られ悶絶させられたらしい。
興味深いのは、被害者に体育会系の男たちが多いということだ。
このことから金品を狙った犯行ではなく、屈強な男の股間を狙うというのが目的であると推測できる。
後日、犯人が捕まったとの情報が入った。犯人はごく普通の青年で、空手家の男を襲ったところ返り討ちに合い、そのまま御用となった。
取り調べによると青年は横柄な態度でこう言った。
「男の金玉を痛めつけて悶絶させる遊びっす。今ネットで流行ってるの知らないんすか~?」
彼が言うには、一般の男を狙い、男性の一番大事なところ。つまり金玉を狙うのがブームになっているようだ。
彼らは悶絶をさせた人数を競い、仲間内で報告している。狙う相手は見た目が強そうであればある程その勇気が褒め称えられる。
信じられないような遊びだが、捕まった彼だけが犯人ではない。まだまだ被害者が出るだろう。
これからは女性だけでなく、力自慢の男達も独り歩きを注意する必要があるだろう。
オヤジ狩りならぬ睾丸狩りだろうか。
馬鹿なガキたちの金玉を蹴り上げてお灸を据えたいものだ。
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