砂浜の用心棒1-1.真夏日の邂逅


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海水浴客で賑わうこのビーチには一区画だけ小さな海の家が5軒並ぶ場所がある。その中の一軒の店でちょっとした騒ぎがあった。

「バカヤロウ!!何考えてやがんだ!!」

米下が怒鳴りながら机を叩くと、ビール瓶やグラスがガラガラと崩れ落ちて、狭い店内に甲高い音が響き渡った。

客たちが一斉にそちらの方を向いたので、背の低い宮崎が慌てて米下をなだめた。
「まあまあ落ち着いて下さい」
「ああ!?ふざけんな!!」
それでも米下の怒りは治らないようだった。
ペコペコと何度も謝る店員の女の子に、酒に酔った強面のおっさんが怒鳴り散らす。

他の客達は海水浴のために、水着を着た姿や、薄手の格好だったのだが、米下と宮崎は違った。
アロハシャツを着てはいるものの、長いスラックスに暑そうな革靴を履いている。
そんな、場違いな格好をした男がシャツにソフトクリームを付けて怒鳴っていた。

「本当にすみません!!」
「ごめんで済んだら警察いらんのじゃ!!女じゃ無けりゃ張っ倒したんぞ!!コラァ!!」
「本当にすみません!!クリーニング代は出しますから」
「そないな事言うとんちゃうんじゃ!!腹の虫が収まらん、ぁあ?女やおもて甘くみとんちゃうぞ!!」

テーブルが5個しかない狭い店内が、おっさんのせいで余計に狭く感じた。
真昼間から呑んだくれたおっさんに店員複数人で対応するが、それでも米下は 納得していないようだった。
店員が謝ると、米下が怒鳴り、宮崎がなだめる。店長が出てきて再び謝るが、弱気の店長ではてんで話にならず、話は平行線のまま続いていた。

「本当に申し訳ありません」
「もっと誠意込めて謝らんか!!!」

店内に10人ほどいた客たちが呆れた顔で「謝ってんだから許したれや」と言っても、怒りが飛び火するだけで如何ともしなかった。

揉めに揉めて一歩も引き下がらないなか、しばらくすると騒ぎを聞きつけたのか、店の入り口に汗にまみれた大柄な男が現れた。

「なんか騒がしいっすね」
2メートル近い身長に、筋肉でぱんぱんに張り詰めたガタイ。太い眉毛に髭面。
まるでプロレスラーの中西学のような風貌の男が店の中に入って来ると、客だけでなく、揉めている2人の目にもとまった。
ピンチになれば駆けつける、このビーチでは有名な用心棒の山内が駆けつけてくれたのだ。

あまりの身体のデカさに二人は目を見合わせる。
「おいなんだこいつ」
「でかいですね米下さん…」

「ライフセーバーの山内です」
低い声でそう言った彼は、用心棒兼このビーチのライフセーバーだ。その証拠にデカイ図体には似合わない赤白帽を被り、ライフセーバーな、お馴染みの赤いブーメランタイプの競泳用水着を履いている。
とはいえ彼ほどのガタイの男が普通の水着を履けるはずもなく、明らかにサイズが小さいパンツを履いていた。サイドは薄く伸ばされ、ケツの割れ目も完全に見えていて、プリッとしたケツが窮屈そうに水着に納まっていた。
前側も同様にピッチリと張り付いてはいるが、20代の若い精の詰まった金玉や、彼の大ぶりのチンポを覆い被すようにボリュームのある膨らみを形作っていた。
もし下から手で掴むと、はみ出してしまいそうなくらい大きい。
ライフセーバー用の赤い競パンに垂れ下がった白い紐が、そんな彼の男の凹凸を際立たせていた。

彼が米下の元へ歩くたびに、大きな膨らみが上下する。
そして刈り上げた頭から汗が滴り落ちる。
その様子を客の男達は嫉妬の眼差しで、女達は興奮して眺めていた。

男らしい風貌と威圧感に店の空気が変わった。毛深い彼は丸太のように太い腕や脚はもちろんのこと胸毛も相当濃く生えていて、それがそのままへそまで伸びて陰毛と繋がるように水着に隠れていった。

「ここは海水浴場っすよ、そんな服着てわざわざイチャモンでも付けにきたんすか」
威圧感のある巨体の男にドスの効いた声で言われると宮崎の方は萎縮して米下の後ろまで下がった。それと対照的に米下の方はそうではなかった。
「おい兄ちゃん、俺は客だぞ?その客の服にソフトクリームこぼしてタダで済むと思うとるんか?これからこいつら殴り倒したろか思うてたところや」

「すまん山内、あとは頼んでいいか?」
「うっす」
店長や店員たちはそそくさとキッチンの方へ入っていったが、気になるのか、キッチンからみんなで覗き込んでいる。

「この店の店員が迷惑かけたそうっすね。代わりに俺が聞くっすよ」
普通の客ならば山内のような大柄な男が来たら大人しくなるものだが、米下は違った。酔いも手伝って、さらに攻撃的になった。
「なあ、あんちゃん。俺の気がすまねぇんだわ。関係ねぇ奴は引っ込んでもらえんかな」
「お客さん、暴れん方が身のためっすよ。怪我するっすよ」
「なにぃ!?」

「いったれいったれ!!」
「おっさん頑張れ!!」
いい加減うんざりしていた客達が、無責任な煽りをしたため、米下は血が頭に登ってしまった。

「う、うちの店の中ではやめてくれぇ…」
店主の悲痛な叫びも虚しく、米下はテーブルを荒々しく蹴って山内に接近した。あたりに料理と酒が飛び散った。

身長差はあれど、一歩も引く気は無い。
米下が腕を振りかぶって、拳を山内の腹にぶち込んだ。しかし拳はめり込むどころかはじき返されて、自らの拳を傷めた。
ゴムタイヤのような感触に米下は驚いた。
「イッテェ!!くっそかてぇ!!」
殴られてもビクともしないどころか、米下の様子に満足した山内は、ニヤリと笑った。
「気が済んだか?クリーニング代は払うって言ってるんすから引き下がるべきっす。じゃ無いと痛い目見ますよ」
そう言って大きな手で米下の頭を掴んだ。身長差が30cmもあれば巨人と小人のように見える。大きな手がギリギリと頭を潰していく。

硬い腹筋だけじゃない。太い脚、太い首、厚い胸板。普通の人間ならば怖じけるし、実際に今までどんな輩でも喧嘩するまでもなく逃げていった。それが自信の表れでもあり、泳ぎが若干苦手な山内がこのビーチでライフセーバーとして働いていられる理由でもあった。
このおっさんにも同じように圧倒的な体格差や力を見せつければ大人しくなる。もし抵抗するようなら、このまま頭を掴んで乱暴に振り回してしまえばいい。そう簡単に考えていた。
しかしその過信が命取りとなることを身を以て知った。

落ち着いた低い声の山内から、いきなり大声が漏れた。

「ぐぉぉっ!!?」
唐突に山内の巨体が浮き上がった。毛深いムチムチの太ももの間にぶら下がる、丸々と肥えた睾丸を膝で蹴り上げられたのだ。

小さな競泳パンツで包まれた男の膨らみは、チンポや金玉といった男のパーツが立体的に浮き出ていた。米下の目線の先にそんなものがあれば、狙うのは当然といえる。

やられた方はたまったものじゃない。全身から力が抜け、内臓の奥に響く痛みに苦しめられる。
2発目の膝蹴りを己の急所で受けると、その苦しみは何倍にも膨れ上がった。

このままではやばいと思ったのか、太ももをキュッと締めて手を股間に当てる。そしてそのまま後退した。
巨体をふらつかせながらもなんとか持ちこたえるが、余裕だった顔が苦痛で歪んで雄臭い顔に変わった。暑さと苦しさでタラタラと汗が流れ落ちる。雄の汗臭い臭いが辺りに漂った。

「へへ、兄ちゃん油断したやろ」
そんな声も聞こえない。顔を青ざめ、ひたいに脂汗を流しながら片手を机に手を付き、もう片方の手で急所を押さえる。先ほどまでの余裕の表情とは打って変わって、焦燥が伝わってくる。

一瞬の出来事に、店員や客たちは動揺を隠せずにいた。
山内がまさか2発の金蹴りでやられるわけがない。
クレーマーを撃退してくれると信じて疑わなかった。それがまさか……

「見ろよこのケツ、デッケェなぁ」
赤ら顔の米下が山内の後ろに回って競パンの後ろをズラすと、毛が生えた大きな大きなケツがあらわれた。そんな痴態に店内は静まり返る。

隣の店から聞こえる騒ぎ声以外には”パスーンパスーン”といった米下がケツを叩く音だけが響き渡った。

「兄ちゃん、あめぇんだよなぁ!!」
「ぐぁぁ!!」
今度は山内の頭を掴み、顔面を勢いよく机に叩きつけた。グラスや皿が勢いよく弾け飛んだ。その間に米下が彼の背後へ回った。
目の前には毛深い大股を開き、目を押さえている山内が急所を無防備にぶら下げている。
となると、やることは決まり切っている。部屋の端で見守っていた宮崎はこれから起こることにゴクリと唾を飲んだ。

米下は山内の水着の上部を左手で掴みながらしゃがみ込むと、右腕を勢いよく振り上げた。手加減なしのカチ上げは、山内のぷりぷりの双球を押し潰し、彼の裏玉に衝撃を与えた。

「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!」
山内は野獣の咆哮のような悲鳴を上げて崩れ落ちた。キュッと太ももを閉じて、ズルズルと床に滑り落ちる。デカイ図体を横倒しにして、裸のまま床を芋虫のように転げ回った。
脚を折りたたんで必死に股間を押さえる様子や青ざめた顔から、米下が本気で急所をカチ上げた事がうかがえた。

「油断大敵ってやっちゃで。そんななぁ筋肉にばっかり頼ってるからタマキンやられんねん。少しは反省しいや」
山内は横倒しに倒れながら、見下ろす米下を恨みを込めて睨みつけるが、やった方は気にもせずに続ける。
「これでわかったやろ、身体がちっこい相手にも要注意や。そんなちっこい水着履いて、股間を強調させてたらなおさらや。なぁ?」
相変わらず赤い顔で同意を求めるように宮崎を見ると、宮崎はブンブンと頭を縦に振った。
「そ、そのとおりです…はぃ」

「これに懲りたらタマキン鍛えるこっちゃな。男やろ」
「オォ…うぅ」
米下は呻き声をあげて床で転がる筋肉男を蹴り飛ばすと、キッチンの方を見た。
「姉ちゃん、こいつに免じて今回は許したるわ。あとでこいつのタマにお礼を言っとけよ」
そう言って笑いながら山内を革靴で踏みつける。ソフトクリームをこぼした定員はその様子を引きつった笑いで見るしかなかった。

「あ、そうや。またタマキン責めて欲しかったら連絡しいや、いつでもイジメたるよ」
米下は名刺を取り出すと悶絶中の山内の水着の下に突っ込み、周りが静まり返る中颯爽と去っていった。

「また来るわ、じゃあの」

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